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2006年08月05日 劇団零式公演「返事」レポート 2006年7月22日(土)〜31日(月)劇団零式(ゼロシキ)の第8回公演「返事」がこまばアゴラ劇場(駒場東大前駅近く)で行われた。作・演出は新井哲さん。すでにいくつかの賞を受賞している。新井哲さんと加藤めぐみさんにより2000年にこの劇団は創設された。 23日の日曜日の13時。場内は暗くなる。やがて、何人もの着物の男女が舞台を歩き回り、風鈴の音がする。夏祭りらしい。ラムネ売りの少年・晴雄(武田力)、そして車椅子の少女・早紀(加藤めぐみ)。そして晴雄と早紀の会話から、早紀は幽霊であることがわかる。そして空襲が始まり、ここが戦時中であることがわかる。 そのように、2時間に及ぶ劇団零式公演「返事」が始まった。戦時中の日本の本土から離れた島、瓶のリサイクル工場が主な舞台。 本土、ラムネ売りの晴雄と、彼にとりついた幽霊の早紀。早紀は川でおぼれて亡くなった。なぜ晴雄にとりついているのかは、あとの展開で明らかになる。晴雄が好きでとりついているのではない。(もしかしたら、早紀は晴雄のことを好きなのかもしれない。晴雄も幽霊の早紀のことを好きなのかもしれない。なぜなら、仲の良い友だちのように、親しげに会話しているのだから)。晴雄はこういう理由なのか、という問いに、早紀は「ほんとうのこと当てちゃだめだよ」と笑顔で答える。その理由を知るとやりきれなくなり、後半での共に幽霊となった晴雄と早紀のやりとりはとてもせつない。 晴雄と早紀(早紀は「これって、あぶなくない?」と彼に問うと、観客は笑う)がラムネ瓶をいっしょに開けようとした瞬間、閃光があったのだろう。少年は原爆で、壁のかげとなってしまう。(ラスト近くでこの場面は再現される……) 場面は変わる。早紀は、島の瓶のリサイクル工場にいる。本土から瓶とともに流れ着いたのだろう。晴雄の代わりにとりついたラムネ瓶とともに、溶鉱炉に放られる。が、早紀(の魂)は、リサイクルされない。ラムネのビー玉ごしに早紀の姿は工員たちにも見えるという。 この工場で働く工員や上司や仲間たちの奇妙な生活が、ユーモアがあり、ときにコミカルに、ときにせつなく、ときにやりきれなく、そして痛みを感じつつウツクシイ。 途中、記憶喪失の男・南田(石井壮太郎)やその男に恋した魚の女・一束(ヒトタバ/中山玲)(人間に整形するが、ガラス製の足ひれをつける。)や包帯だらけの捕虜の女・シジマ(加藤めぐみ/一人二役)などが登場する。彼らは、奇妙にどこかしらでつながっている。ある種、運命共同体といってよいのだろうか。 工員たちはやがてラムネを作り始める。原料は流れ着いた瓶をリサイクルするので、元手はかからない。漂着した瓶を仲間の間ではしゃべることができない、いじめられている青年・何時夫が回収する。その瓶には手紙が入っていることがある。…… 2時間の上演時間があっという間に過ぎていった。あきさせない演出だったと思う。狭い舞台を手前と奥にわけ、奥は高く作り、立体的に演出できるようにしてある。 手前や奥や時にその両方で同時並行で役者たちが演じる。 * 印象に残ったユニークな登場人物たち。たとえば……。(上の写真は晴雄と早紀) 少女の幽霊・早紀を加藤めぐみさんが演じる。早紀が時に車椅子に、時に工場の隅や物陰で、人間や世界を見つめている。その奇妙な存在感やまなざしやあぶなげなうつろな感じに、惹かれてしまうものがあった。 青年のひとり・二十日(ハツカ)が溶鉱炉に飛び込み、仲間の動きが止まってしまう。その一人ひとりに早紀が「ラムネはいかがですか」と涙声で訴えるように、声をかけていく。そして観客たちにも同じように問いかけていく、それはなんだかやりきれないような気持ちになった。 壁のなかにいる幽霊となった晴雄(武田力)と、早紀のやりとりも興味深い。 溶鉱炉に身を投げる早紀の幽霊。早紀の魂はリサイクルされるのだろうか。そして返事はくるのだろうか。 片足を魚に食べられてしまい、ガラスの義足をしている情熱的(ちょっとエキセントリック)な女性・芽衣(メイ)に岡田あがささんが熱演。松葉杖をつきながら、舞台を活発に動き回る。芽衣は工員たちのマドンナ的存在のようで、彼女がいると華やいで見えた。その芽衣が恋をするしゃべれない青年・何時夫(イツオ/酒井和哉)。何時夫が面倒をみている全身の包帯の捕虜の女性・シジマ(加藤めぐみ。一人二役)。 みんなのまえではしゃべらない何時夫が、実は捕虜のシジマの前では話ししていた。そして謎の一つひとつが明かされていく。 魚の女・一束(中山玲)と記憶喪失の男・南田(ミナミダ/石井壮太郎)の結婚が強引かつコミカルに演じられる。南田が探していたものを一束がみつけた重要な何かであったというつながりがふたりにはある。 島の外との唯一つのつながりでもあり、工員たちのリーダー格・スーパーバイザーの浦賀(佐野陽一)。芽衣の父親で工場長の小暮(大友久志)など、一人ひとりの役者さんたちも好演・熱演していたと思う。また音楽も良く、この作品はとてもよい作りという印象。 * わたしは劇の終了後、アンケートに「すばらしい公演でした。ときにせつなく、ときにやりきれなく、ときにユーモアに満ち……」とそのようなことを記入し、席をたった。 出口でアンケート用紙を渡し、出入り口近くで、スポンサー提供のラムネを手渡された。小劇場の演劇。それは手が届きそうな距離で、演じる役者さんたちを観ることができる、とても刺激的で、心動かされる場であった。 記事:光冨郁也 協力:岡田あがさ(劇団零式) 画像提供:劇団零式 岡田あがさ (ちらしのモデル:岡田あがさ) 追記:新井哲作「返事」は第12回劇作家新人戯曲賞受賞しました。 (文芸アート誌「狼」14号からの転載) |
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